就活支援ジャーナル

send "新卒一括採用"と"通年採用" 社会への「入口」と働き方を考える

2022年5月27日 金曜日

多様化する人材と価値観、「個」を活かす採用手法に社会的な期待

「多様化」に対する意識が高まっている。特に注目を集めるのは働き方だが、それは価値観と人材の多様化ととらえることもできる。変容する社会に柔軟に対応するべく、採用方法の拡大や見直しについて議論されることが少なくない。いわゆる日本式の「新卒一括採用」が果たして来た機能と役割を見ていくと共に、「通年採用」について考えてみたい。

◆注目を集める「通年採用」多様な選択肢で人材確保

「新卒一括採用」とは、企業が計画的・継続的に、卒業予定(国の指針として既卒3年以内まで)の学生等を対象に募集・選考活動を行い、卒業時に一括して採用を行う慣行のことだ。これは、日本企業独特の募集採用形態とされ、新卒者独自の労働市場として保たれてきた。実務に直結するスキルを持たない大学新卒者であっても、学校卒業直後の接続として失業を経ることなく就職することが可能となるのが特徴だ。

企業にとっては、募集選考や教育訓練等を計画的・効率的に行うことができるというメリットがある。毎年度多少の変動が生じるものの、新規学卒者だけで約40万人以上が安定的に就職を果たしている社会システムだ。これにより、日本の若年層の失業率が諸外国に比べて低く抑えられていると指摘する声もある。

それに対して、近年、注目を集めているのが「通年採用」だ。これは、必要性に応じて企業が年間を通して、新卒・中途を問わずに採用活動を行うこと。新卒一括採用のように、例えば「春季」「4月」と入社時期が限定されるものではなく、採用内定後、即時の入社を想定した選考形式だ。日本企業への就職を希望する外国人留学生や、日本とは入学時期が異なる海外帰国子女の秋季採用の増加、また第二新卒や激変する社会動向に即応できる新たな人材獲得の必要性など、多様化するターゲットへの対応や柔軟性のある採用時期の設定が待望されて来た背景がある。

本年3月、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」から興味深い報告がなされた。「Society5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」と題するそのリポートは、Society5.0実現のカギは"人材"であるとし、学生・大学・企業という三者の多様性を前提に、Society5.0において新たな領域に挑戦し、社会に付加価値をもたらすことのできる人材をいかに育成するかという問題意識が投げかけられた。

Society5.0で活躍できる人材を育成するには、大学において十分な学修経験時間が必要であるとの視点から、「現行の採用日程では、大学教育への影響が大きく、学修経験時間が不十分」とした上で、「採用のあり方の検討、および大学院レベルまでの教育をより重視することが必要」と説きつつ、「『Society5.0に向けた人材育成』というビジョンを、広く国民が共有し、国全体で教育に対するマインド・セットを変えていくことが必要」であると結論づけている。
通年採用の考え方や仕組みが社会全体に浸透することで、学生やそれをサポートする大学側の準備体制が整い、スムーズに就職活動を行うことができるものと期待し、大学生活4年間(大学院教育も含む)で培ってきた能力を尊重する採用選考の定着と共に、特定の仕事に人を割り当てる形で、その仕事の遂行能力に応じて雇用の継続や待遇が決まる「ジョブ型採用」を拡大させることで、自分の能力に応じた働き方を選択することができる採用方法・卒業時期の多様化・複雑化を目指すとしている。

新卒一括採用では、学修経験時間の不足や海外留学経験者、多様な活動を行う学生の活動範囲が制限されるという指摘もなされて来た。通年採用が広がることで、自身の経験を活かしながら、同時に、制限されることなく就職活動に励むことが待望されている。

前掲の『報告書』では、Society5.0への移行に向けて、産学が推進すべきこととして、さまざまな提言がなされている。

中途採用の拡大や外国人留学生・海外大学卒業生の採用など、企業の採用・雇用は、すでに相当程度に多様化・複線化しているとする一方、「大学4年6月以降の通年採用」や「新卒・既卒不問の採用」、あるいは「能力や職種に基づき異なる処遇等を提示」している企業の構えや実態が、学生や保護者に必ずしも十分に伝わっているとは限らないと分析。そのため「企業は情報発信を強化し、学生や保護者をはじめとする社会に周知することが必要」であると強調している。

◆通年採用に関する考え学生と企業の意向に違い

通年採用に関する考え方について、学生側と企業側の立場から見ていこう。

厚生労働省の「第5回今後の若年者雇用に関する研究会事務局説明資料」によれば、学生側の意向として「通年募集・秋季募集を行う企業が多ければ良いと思うか」という質問に対して、半数を超える60.6%が「はい」と回答した。その理由を見てみると、最も多いのが「就職活動に時間をかけて自分に合った企業を見極めたいから」で61.2%だった。次いで、「希望する就職先の候補が複数あり、採用スケジュールが重なるのを避けたいから」47.9%、「現在のスケジュールでは、学業に支障があるから」34.3%と続く。そのほか、留学や教育実習、公務員採用試験などを理由に挙げる者も少なくなかった。総じて、通年採用を好意的に受け止める柔軟な姿勢が強いように映る。

一方、企業側はどうか。独立行政法人労働政策研究・研修機構による「企業の多様な採用に関する調査」のうち、「平成30(2018)年春の新規大卒採用」における「勤務開始時期(企業規模別)」を見てみると、「100人未満」「100〜299人」「300〜999人」「1,000人以上」という全ての企業規模において「4月又は3月の定められた日のみ」と回答した割合が多かった。また「複数回の採用や通年採用を実施しない理由(複数回答可)」については、「春季採用のみで必要な人材を概ね確保できるため必要がないから」「秋季採用や通年採用では中途採用のみを対象としているから」などが理由として挙がる。

いずれにしろ、「新卒一括採用」もしくは「通年採用」のどちらか一方が良い・悪いという二分論ではなく、あくまでも多様な人材の受け皿や働き方、価値観を尊重する手段の一つとして、通年採用を行う企業が拡大傾向にあるということであって、大切なのは自分に合った方法で就職活動に臨むということだろう。

通年採用が拡大することで、将来の目標が明確な者や専門分野を学んできた者にとっては、自分の能力を最大限発揮できる企業に就職する機会の増大につながる。企業に就職して、イチから自分の能力を磨いていきたいと考える者にとっては、新卒一括採用のほうがむしろ合っているとも言えるだろう。

社会変革やグローバル化が進んでいく中で、今後採用方法もますます広がりを見せていくことだろう。どのような働き方、採用方法があるのかを見極めて、自分に合った働き方を見つけて欲しい。

 

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