「キャリア進学」の魅力 大学・短期大学卒業後に専門学校で学び直すという選択肢
2016年3月8日 火曜日
平成27年3月に大学を卒業した56万4,035人のうち、「正規の職員等」(38万8,578人)と、「正規の職員等でない者」(2万1,132人)を合わせた「就職者」は40万9,710人でした。率にして72.6%という数字が示すように、かつ次位の「進学者」ですら11.0%に過ぎないことでも分かるように、大学を卒業した後の進路内訳は、例年ほとんどが「就職」というのが現状です。
こうした傾向は、短期大学の場合はより顕著です。5万9,435人の新規卒業者に対して、「正規の職員等」(4万1,161人)と、「正規の職員等でない者」(5,243人)を合わせた「就職者」は4万6,404人。実に78.1%もの卒業者が「就職」を果たしており、就職率で言えば、大学よりも5.5㌽も上回る実績を残しています。
一方、ここに興味深いデータがあります。それは、大学や短期大学、高等専門学校といった「高等教育機関」の卒業者で、平成27年4月、「専門学校」に「再進学」を果たした者が1万7,882人もいるという事実です。この数字には、過年度の卒業者が含まれているため、単年度の傾向としてとらえることはもちろんできませんが、先の「11.0%」を構成する「大学院研究科」「大学の学部・専攻科・別科」「短期大学の本科・専攻科・別科」への進学者6万2,238人と比較しても、無視できるほど小さな数字ではありません。「再進学」を果たす若者の多くは、自身の「キャリアアップ」や「自己実現」が目標であるため、こうした学びのスタイルは、特に「キャリア進学」と呼ばれて、新しい「キャリアデザイン」の具体的な取り組みとして注目を集めています。
「キャリア進学」層は、平成22年度の2万4,863人を頂点に、近年は2万人前後で推移しており、専門学校入学者に占める割合は例年7~9%前後と、専門学校新入生のうち約1割が大学・短期大学、高等専門学校の卒業生で占められています。
専門学校はもちろん、類似した教育を行う「専門教育機関」は、就業上必要とされる知識や技術、資格等を身につけるためのカリキュラムが編成されており、実技・実習の時間が豊富に設けられているのが大きな特長です。
大学・短期大学がある程度広範な領域を理論的に学んでいくのに対し、これらの教育機関は、将来目指す職業や目標に向けて効率良くアプローチできる実践教育が充実しています。そのため、「就きたい仕事」が明確である若者にとって、これらの教育機関への「キャリア進学」はキャリア形成の意味で有効な選択肢の一つとなっています。
また、“職業教育に強い”“資格取得に有利”“就職が万全”とされてきた専門学校は、一般的な大学・短大に比べて企業等との連携が緊密で、それゆえ企業や産業界が期待する即戦力として実践力のある人材を送り出してきました。
文部科学省の『平成27年度学校基本調査報告書』によると、実際に就職した専門学校新卒者の93.6%が“(学んだ内容の)関係分野”に就職を果たしていることが分かっています。このように、卒業者の多くが関係分野に就職するという専門学校生の雇用情勢と実際の就職先とのマッチングの度合いの高さや、目指す業界や職種に直結した専門性が専門学校の大きな魅力です。また、大学新卒者の就職率が72.6%と7割程度にとどまるのに対し、専門学校新卒者全体の就職率は81.8%と、実に9.2㌽も大きく水をあけている実態も押さえておきたいところです。
データはやや古くなりますが、以前文科省が実施した調査によると、企業が専門学校卒業者を採用する理由のトップは、「専門の職業教育を受けているから」(57.8%)でした。人材をじっくりと育成する余裕がかつてほどなくなったとされる産業界は、就職希望者が「何ができるのか」という実力を重視しているため、現場ですぐにでも通用する実践力を身につけた人材を欲しています。
そうした視点から見ると、専門学校や専門教育機関で学ぶ上で特に注目したいのは、資格取得指導の充実度です。国家資格・公的資格・民間資格の別を問わず、各学校では、将来の仕事に直結する有力資格・難関資格の取得を念頭に、行き届いた教育を展開しています。これは、各種検定試験に対しても同様で、職種によっては資格保有が必須条件だったり、技術や知識といった専門性を備えている証明となる所定の検定試験合格が求められたりする場合があるなど、条件充足者は就職活動を進める上で一つのアドバンテージと考えても良いでしょう。
専門学校・専門教育機関のカリキュラムのもう一つの特長は、時代の要請に柔軟に対応している点です。例えば、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて活況を呈している建設業界やホテル・観光業界を意識した学科・コースの新増設など、社会的ニーズの吸収に極めて意欲的です。
そのほか、設置学科の具体例を挙げれば、「起業実践」「ベンチャービジネス研究」「キャリアサポート」「グローバル教養」「ワーキングスタディ」「ホスピタリティサービス」「ヘルス・プロモーション」「IT・クラウド」「スマホアプリビジネス」「ネットショップ構築・運営」「エコ・コミュニケ―ション」「ドルフィントレーナー」など、まさに社会的な動向や経済情勢をダイレクトに反映した今日的な学びがタイムリーに用意されているのも、「キャリア進学」を目指す動機の一つになるでしょう。
一方、最近になって大きな期待を集めているのが、平成25年度、既存の専門学校の中に新たに導入された新制度「職業実践専門課程」です。職業実践専門課程は、企業等と密接に連携して実社会の最新知識・技術・技能を修得できる職業教育に取り組む学科を、文部科学大臣が認定するというもの。
産業界のニーズをキメ細かく反映した、より実践的なカリキュラムが編成されるとあって、大いに注目されています。全国にある専門学校2,823校・7,023学科(修業年限2年以上)の中で、平成28年2月19日現在認定されているのは、833校・2,540学科に過ぎないため、職業実践専門課程の認定学科を持つ専門学校は“専門学校の中の専門学校”的なイメージを描くとより分かりやすいでしょう。
大学・短大で培った教養をベースに資格取得を目指すも良し、あるいは、さらなる専門性を身につけるのも良いでしょう。各校の詳細は学校案内書等で確認しましょう。
「キャリアデザイン」や「自己実現」をキーワードに、大学・短大卒業後の「キャリア進学」を目指す志望校を決めたら、オープンキャンパスや体験入学等を活用し、自分の目的に合っているかどうかをぜひ見極めるようにしましょう。
そして、その際に留意しておきたいのが、「キャリア進学」に伴う学費です。特に「入学金」と「年間授業料」を合わせた「初年度納入金」は、学校や分野によって大きく異なるのに加え、実習費や教材費といった諸経費が別途必要になることも多いため、入学案内書や募集要項などで必ず事前に、納入時期・方法を含めて確認しておく必要があります。
東京都専修学校各種学校協会の「平成27年度学生・生徒納付金調査」によると、専門学校に進学した場合、平均的な初年度納入金は約123万円前後です。
こうした学費やそのほか必要となる生活費を工面するための方法として挙げられるのが奨学金制度の利活用です。代表的な日本学生支援機構の奨学金のほか、地方自治体・民間育英団体・企業などの奨学金制度や学校独自の奨学金制度、特待生制度、あるいは国の教育ローンなど、多彩な制度の中から無理なく活用できるものを検討するのがベターです。
しかし、大学・短大時代にすでに奨学金を活用していたという人も少なくないに違いありません。“もうこれ以上奨学金を頼りにしたくはない”という場合に考えたいのが、「学びながら働く」学生を支援する諸制度の利用です。
例えば、企業における実習をカリキュラムの一部として組み込み、実践力を身につけると共に労働報酬も得られるように配慮された「日本版デュアルシステム」や、昼間に提携企業に勤務しつつ、夜間は学校で勉学に励む「学生社員制度」など、実社会で専門性の高い経験を積みながら、労働の対価を学費に充当することも決して不可能ではありません。興味や関心がある場合には、志望校に問い合わせをして確認するようにしましょう。
不本意な就職で一時的な安定を求めることの是非や価値観は、もちろん人によって違うでしょう。しかし、「小さい頃からなりたかった職種がある!」「憧れの職業に就きたい!」「どうしても目指したい資格がある!」というキャリアアップ志向のみなさんなら、専門性の追求をあきらめず、意欲的にチャレンジして欲しいのが「キャリア進学」という“もう一つの進路”なのです。道は目の前に大きく拡がっています。