美容業界の離職問題に立ち向かう専門学校の姿-中部美容専門学校
2016年6月9日 木曜日
愛知県内で「一宮校」「岡崎校」「名古屋校」の3校を運営する中部美容専門学校。県下に点在する約4,000 店舗の美容サロンが加盟する愛知県美容業生活衛生同業組合(本部・名古屋市、以下「美容組合」)が設立・運営している、美容現場が求める人材を輩出することを目的とした美容学校だ。本稿では社会から高い評価を得ている同校の特色や支援体制を特集する。
組合立の美容学校としての取り組み
中部美容専門学校が、ほかの美容学校と一線を画しているのは、美容師希望者の興味を引く技術や知識ではなく、美容業界が必要としているプロのベースとなる技術や知識を指導・教育している点だ。
お客様が求めているもの―。それは、高い技術はもちろん、慕われる人柄であり、居心地の良い空間である。同校ではそれを「本物の美容師を育てる」と位置づけることで、信頼される能力と資格を備えている美容師を育成すると共に、社会人になる自覚を醸成した上で卒業させて果たそうと考えている。離職率が高い美容業界において同校の卒業生の離職率が低い背景には、業界の枠を超えて高い評価を得ているキャリア教育の存在がある。
なぜ離職してしまうのか
美容業界では以前から慢性的な「人手不足」が問題になってきた。それは離職問題と置き換えられ、「学校・労働者・経営者」の三者が互いの言い分を言い合う「三すくみ」の状況になっている現状がある。各々の大まかな言い分は、学校=就職まではサポートするがそれ以上は対応し切れない、労働者=賃金や待遇が悪い・人間関係の問題、経営者=早期離職者が多い現状で賃金は上げられない・就職者が未熟でサービス業を理解していない。その姿勢から分かるように、三者とも自らの課題を改善ができていない。特に個で弱者になってしまうのが労働者であるため、離職の主要因が人間関係の問題であるとしても、離職を後押ししてしまうのが低賃金や長時間労働などの労働環境になってしまうのである。
美容組合と連携した就職サポート
停滞している現状に組合立の学校として同校が4年前に始めたのが「業界全体のキャリア意識の向上」だ。まず、美容組合と連携して約1,000 人のオーナーや企業の人事・採用担当者を集めて「求人説明会」を開催。求人説明会では社会保険加入の重要性、現在の美容学生のタイプ、高等学校までのキャリア教育、社会保険労務士から労働基準法の解説と近年における労働環境問題の事例説明、さらには学校が把握している就職先から受けた卒業生の苦情・相談の内容報告を公開し、離職させない労働環境を作ることが、人手不足を解消する最大の要因にな
ることを説いてきた。
また、「本物の美容師を育てる」ために、入学したばかりの新入生を対象にオリエンテーション研修を実施。「何のために美容学校に入学したのか」「入学がゴールではなく夢への途中であり、生きていく技術を得るために美容学校に来ている」という事実の確認を行い、年6 回実施している「就職事前指導」において、離職する理由からアシスタントとして評価を受ける必要性、求人票の正しい見方、企業(サロン)見学の重要性などまでを説明し、卒業生が就職後に弱者にならないために、また、それ以前に働きやすい環境を選べるように指導に着手した。
そして同校は、全国の美容学校で唯一、職業紹介所として厚生労働大臣の許可を取得した公益社団法人全国民営職業紹介事業協会(本部東京・文京区)の加盟団体になり、卒業生に限らずハローワークなどの職業安定機関と同等に、求職者や企業に職業斡旋や助言ができるようになった。
当初は美容業界の一部から反発もあったというが、卒業生が離職せずに働き続けている実績が同校のブランド力になり、求人票の公開条件を学校側が設定できる環境が整備された。
離職しない就職へ
中部美容専門学校では1年生の2 月に求人票公開、3 月下旬に求人ガイダンスを単独で開催し、就職活動がスタートする。就職事前指導を個別相談も含めて何
度も行っているため、就職斡旋を学校は一切行わない。「自分で決める」ことで働く意志を明確にさせ、「自分が決めていないから」という心の逃げ道をなくさせるためだという。
内定は、早い生徒は2 年生の4 月、夏休み中に7 割、そして10 月頃にはほとんどの者が得る。内定した生徒は9 月から10 月にインターンシップに参加する仕組みだ。しかし、大学などが行うインターンシップとは内容が大きく異なる。それは「就職内定先に就業体験をする」点にある。最大の特長は、企業側と生徒のマッチングが合わなければ双方が内定を辞退・取り消しをすることができるということだろう。
美容業界の問題は「早期離職」にある。まだ学校に在籍中であれば生徒のキャリアに傷がつくこともなく、多くの求人票からインターンシップで経験したことを踏まえてリスタートすることができ、企業側も賃金や欠員で経営やビジョンに影響が出にくいと大変歓迎されている。このように生徒全員が実務内容を経験してから就職するため、離職率の減少につながっているのである。
「将来は独立・起業したい」「最先端のサロンで働いて流行を発信したい」「お母さんになっても美容師を続けたい」―。生徒一人ひとりに多様な未来が待っている。同校は美容組合が設立した学校として、業界の現状と生徒が描くキャリアデザインに向き合いながら今後も最適なサポートを提供していく。
美容師になりたい高校生はもちろん、大学・短期大学に通う学生などの再進学も歓迎しているため、美容業界に興味のある人はぜひチェックして欲しい。