「売り手市場」で早期化に拍車がかかる大学新卒者採用〝令和2年4月入社〞にもまだチャンスが残されている
2020年5月27日 水曜日
令和2年3月に卒業を控える大学生の就職活動が山場を過ぎ、収束局面を迎えている。志望企業からすでに内定を得て、入社に向けた準備を進めている人もいれば、より高みを目指し、現在も就職活動を継続中だという人もいるだろう。本号では、政府の統計調査から令和元年度の就職・採用活動の実態を振り返り、大学新卒者採用をめぐる就職市場の最新動向を解説する。
「20新卒」の最新内定状況「10月時点」では昨年並み
令和2年3月卒業予定者の現在の就職内定状況を見てみよう。文部科学省と厚生労働省が11月15日に発表した「令和元年度大学等卒業予定者の就職内定状況調査(10月1日現在)」によると、令和2年3月に卒業予定の大学生(学部)の就職内定率は76.8%で、前年同期比0.2㌽減だった。これは平成9年3月卒対象の調査開始以降2番目に高い数値となっている。就職環境は依然として学生優位の「売り手市場」と見て間違いないだろう。
しかし、売り手市場が続いているからといって、受け身の姿勢でいては、必要な情報やチャンスを逃しかねない。実際に、令和元年度の就職・採用活動時期については、日本経済団体連合会(経団連、本部東京・千代田区)が発表した「採用選考に関する指針」の通り、企業にとっての広報活動の開始は3月1日以降、採用選考活動開始は6月1日以降というように、昨年度と同時期とされたが、中には優秀な学生を囲い込もうと、これよりも早期に選考活動を行う企業があったようだ。また、6月以前のインターンシップにおいて実質的な選考が行われていたケースがあるとの報告もなされており、就職・採用活動の実態はより複雑化していると言えるだろう。
内閣府が調査結果を公表功罪相半ばの現行日程
内閣府は今秋10月、非常に興味深いデータを公表した。ここではその資料「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査結果(速報版・概要版)」を概観しながら、今年度の就職・採用活動の動向を振り返ってみよう。この調査は令和元年度卒業・修了予定者の就職・採用選考活動の実態を把握すると共に、令和2年度以降の就職・採用活動の円滑な実施に資することを目的に実施されたもの。令和元年7月9日~8月7日までの期間、60校程度の大学に所属する学生を対象にインターネット調査を行い、「8月1日時点の状況」について、大学4年生は5,023人、大学院2年生は1,963人の計6,986人から有効回答を得た。
発表によれば、就職活動時期が昨年度と同時期に設定されたことについて、「昨年の就職活動の情報を参考にすることができた」「夏の暑い時期に就職活動を行わなくて済んだ」「予定をたてやすく準備・行動ができた」の各項目について、全体の6割強の学生が「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答した。一方、「選考活動を早期に開始する企業があり混乱した」については、約6割弱が「そう思う」または「どちらかといえばそう思う」と回答。その意味では、現行の就職・採用活動日程は功罪相半ばするものと言うことができそうだ。
また、就職活動と学修時間確保の状況について、「十分学修時間を確保できた」「必要な学修時間は確保できた」「一定の学修時間は確保できた」のいずれかを回答した者は、2018(平成30)年12月~19(平成31)年2月の時期では80.7%と高いものの、19(平成31)年3月~19(令和元)年5月の時期では37.8%にまで下落。企業の広報活動が解禁される3月以降、学生が特に就職活動と学業の両立に苦労していることが読み取れる。
さらに、エントリーシートの提出数について見てみると、「1~4社」と回答した者の割合は16.6%で、「5~9社」が21.7%、「10~19社」が30.6%、「20~29社」が17.7%、「30~39社」が8.5%、「40社以上」が5.0%という結果だった。20社未満の割合が全体の約7割を占めており、過年度に比べ、より少ないエントリーシートの提出数で内定を得るまでに至っていることがうかがい知れる。
「内々定を受けた時期」を月別に見ると、「3 月」と答えた者が11.6%、「4月」25.2%、「5 月」25.2%、「6 月」21.7% という結果で、採用選考活動開始とされる6 月1 日以前に、企業が内々定を出している実態が明らかとなった。
さらに、過年度と比べてみると、2016・17( 平成28・29)年度では内々定のピークが6 月、18( 平成30)年度では5 月だったのに対し、今年度は4 月・5月となっており、内々定のタイミングが前倒しになっていることが分かった。
7割がインターンシップへ採用選考が伴う場合も!
インターンシップの参加経験の有無について見てみると、「複数回参加したことがある」と回答した者の割合は52.1% だった。以下、「参加したことがある(1 回)」が21.3%、「参加したことがない」が26.5% となっており、インターンシップに参加経験のある学生が全体の7 割強を占める結果となった。インターンシップ参加の時期については、調査時点で大学4 年生の者の場合、大学3 年生当時の「7 月~ 9 月」が46.4%、「10月~12月」が33.8%、「1 月~ 3 月」が45.8% と、卒業・修了前年度の夏季~冬季における参加割合が集中的に高くなっていた。また、インターンシップにおける実質的な選考実施の有無について、インターンシップ参加者全体の27.6% が、「採用のための実質的な選考を行う活動を含んでいた」と回答する結果になった。
経団連が平成29 年4 月10 日に改定した『「採用選考に関する指針」の手引き』によれば、インターンシップは「産学連携による人材育成の観点から、学生の就業体験の機会を提供するものであり、社会貢献活動の一環」として位置づけられ、「教育的効果が乏しく、企業の広報活動や、その後の選考活動につながるような1 日限りのプログラムは実施しない」ことが明記されている。このインターンシップの取り扱いについては、次年度以降、経団連による「採用選考に関する指針」の策定が廃止され、政府が主導する形式に移行しても、変わらないままだ。学生が学業に専念できる環境を確保するためにも、企業には今後、採用活動に関する要請事項を遵守する姿勢が求められるだろう。
就活期間は二極化傾向か多くが「ルールは必要」
就職活動の始まりから終わりまでの期間(公務員や教職員志望者は除く)について、「3 カ月間程度以内」と答えた者の割合は全体の35.2% を占めた。これ以外では、「4 カ月間程度」15.7%、「5 カ月間程度」8.8%、「6 カ月間程度」5.6%、「7 カ月間程度」4.2%、「8 カ月間程度」3.7%、「9 カ月間程度以上」21.7%、「まだ終わっていない」5.0% という結果になった。ここからは、今年度の就職・採用活動については、短期間で就職活動を終える者と長期にわたって就職活動を継続する者の二極化が進行したと言うことができそうだ。
最後に、就職・採用活動開始時期等のいわゆる「就活ルール」に関する考えについて見てみると、「ルールは必要であり、現在の開始時期がよい」と答えた者が全体の45.2%、「ルールは必要だが、現在の開始時期より早い方がよい」が20.3%、「ルールは必要だが、現在の開始時期より遅い方がよい」が9.0%、「ルールは必要ない」が20.9% という結果だった。就職・採用活動に関するルールは必要だとする回答は全体の7 割5 分をうかがう勢いだが、開始時期自体については就活生の間でも意見が分かれている。
採用活動は依然継続中20年4月入社にも可能性
令和2 年4 月入社に向けて就職活動を継続している学生の中には、このような調査結果に関して、不安や焦りを感じるという人も少なくないだろう。しかし、どれだけ早く内(々)定を得ても、入社後にミスマッチを感じて早期離職してしまうのでは本末転倒だ。
実際に、厚生労働省が10 月21 日に公表した「新規学卒就職者の離職状況(平成28 年3 月卒業者の状況)」によると、平成28年3 月に大学を卒業して就職した者のうち、32.0%が3 年以内に離職したことが分かっている。その内訳は、入社1 年目の離職率が11.4%、2 年目が10.6%、3 年目が10.0% という結果で、決して少なくない数の大学新卒就職者が入社3年以内に離職している実態がある。その意味では、単に企業から内(々)定を得ることを目標に据えるのではなく、ていねいに時間をかけ、自分自身が納得できるまで就職活動を続けることが大切だと言えるだろう。本紙では、現在も意欲的に採用活動を続ける企業・団体等の情報を多数紹介している。そのため、就職活動継続中の学生はぜひとも本紙を活用し、興味・関心のある企業に積極的にエントリーして欲しい。