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医療開発、企業と「意思疎通」 川崎モデル、全国から視察者
2016年1月6日 水曜日


付加価値高める
2005年の同社川崎工場閉鎖を受け、同市は殿町3丁目地区の整備方針を策定。医薬品や医療機器、先端医療に代表されるライフサイエンス分野の拠点を目指したまちづくりに乗り出した。鈴木毅・市総合企画局担当理事は「日本で付加価値の低い素材を作って輸出するビジネスモデルはもはや成り立たない。特に京浜臨海部は地価が高く、付加価値の高い産業を誘致しない限り、地域経済の再生はなかった」と指摘した。 ただ、工業用地を開発したからといって企業がすぐに入居するとは限らない。そこで同市はまず実験動物中央研究所(実中研)の誘致に乗り出した。 11年7月、キングスカイフロントに進出した実中研は、新薬や医療機器の開発には欠かせないマウスなどの実験動物の開発に取り組む。実中研は世界で初めて、マーモセットというサルの遺伝子を改変した新しい実験動物「トランスジェニック・マーモセット」を開発した。マウスの実験結果が、ヒトに全て当てはまるとは限らない。前臨床試験で遺伝子がよりヒトに近いマーモセットを使えば、開発中の新薬などの安全性や有効性評価の精度が高まる。
この実中研の進出が、バイオベンチャーや医療機器メーカーの進出を呼び込んだ。キングスカイフロントにある研究拠点「ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)」に研究室を置くバイオベンチャー、ナノキャリアの中冨一郎社長は「実中研が近くにあることは大きなアドバンテージ」だと話す。同社は体内に運ぶ薬を詰める超微細カプセル「ナノマシン」の開発を進めている。前臨床試験において、実中研で開発された実験動物の活用を念頭に置く。 iCONMは15年4月に開業し、大学や企業から独立したまったく新しい形の研究拠点だ。同市の外郭団体である市産業振興財団が施設の管理や運営を手掛ける。4階建ての建物の中に、クリーンルームや生化学実験室、合成実験室、さらに動物を使った前臨床試験ができるヒト疾患モデル実験室を備えている。これらの実験室が同じ建物の中にあるのは、日本ではここだけだ。「視察に訪れた研究者から、『こんな施設は見たことがない』という声をよく聞く」(岩崎広和・同財団理事)ただ、施設を整備しただけでは、イノベーションは生まれない。同財団は13年、企業や大学などとともに、文部科学省の公募型プロジェクト「革新的イノベーション創出プログラム拠点」に応募し、採択された。
採択された研究開発プロジェクト「COINS」のプロジェクトリーダーには、外資系企業を立ち上げた経験を持つ東京大大学院薬学系研究科の木村広道特任教授が就く。ナノマシンのほか、アルツハイマー病の克服、細胞を使わない再生医療など、これまでの医療の価値観を変える可能性がある6つの研究テーマで開発が進む。 ニーズを把握 同市は産業振興には定評がある自治体の一つ。担当職員が市内の大企業や中小企業に足しげく通い、事業や技術開発の面で困っていることを把握。必要に応じて信用金庫や大学の研究者などに引き合わせ、課題の解決を図る。「川崎モデル」と称される支援策を詳しく知りたいと、全国から視察者が訪れる。 福田市長は「自治体と企業の意思疎通がしっかりしている」と述べ、成功の極意を打ち明けた。ハコモノだけに頼らず、進出企業のニーズ、課題をうまく捉えながら、開発が進む「キングスカイフロント」。味の素をはじめ、その周辺で工場を構える化学、ガラスなどの大手企業も、医療現場で欠かせないさまざまな器具を手掛けている。米シリコンバレーのように、大手企業とキングスカイフロントに進出したベンチャーとの連携が進めば、川崎がライフサイエンスの分野で世界のトップランナーになるかもしれない。(松村信仁)
■キングスカイフロントをめぐる主な経緯 2009年11月 川崎市が「殿町3丁目地区都市計画」を決定 10年 4月 川崎市がUR都市機構から土地を取得 11年 3月 キングスカイフロントと命名 7月 実験動物中央研究所が開業 14年 5月 川崎市を含む東京圏が国際戦略特区に指定 15年 4月 ナノ医療イノベーションセンターが開業 ※16年度中 国立医薬品食品衛生研究所が完成 ※17年 3月 サイバーダインの施設が完成 ※は予定 「川崎モデル」と称される支援策を詳しく知りたいと、全国から視