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介護離職ゼロへ企業の本気度 セミナーや手厚い資金…仕事との両立支援
2016年1月29日 金曜日

介護休業も法定水準を上回る最長2年を認めている。ただ、在宅勤務やフレックスタイムを利用して対応できるため、取得者が極端に増える様子はない。
企業の取り組みについて、介護者目線の介護離職防止コンサルティングを行う一般社団法人「介護離職防止対策促進機構」の和気美枝代表理事は、長期の休業制度は「長く休むほど復帰がつらくなる」として勧めない。その上で、自身も介護離職の経験者の和気氏は「介護経験社員を社内の両立支援者にすべきだ」と強調する。両立させてきた人の体験談が何より重要な情報だからだ。人口に占める65歳以上の割合は現在4人に1人だが、35年には3人に1人を超えると推計されている(国立社会保障・人口問題研究所)。
介護人口がさらに増えるのは必至で、安倍晋三首相は昨年9月、経済政策の中核に「介護離職ゼロ」を据え、本格的な対策への着手を表明した。 政府は16年度に介護休業中の給付金を引き上げるとともに、最長93日の休みの分割取得を認めるなど、介護休業制度を使いやすくする方針だ。だが、企業や要介護者を抱える人にとってより望ましいのは、できるだけ休まずに介護と仕事を両立できる環境だ。昨年、米金融大手ゴールドマン・サックスの日本法人が導入した福利厚生制度が注目を集めた。全社員を対象に、家族1人につき年間100時間分の介護サービス使用料金を会社が全額負担するというもの。介護大手ニチイ学館との契約により47都道府県で利用が可能だ。
「同僚に迷惑をかける、退職するしかない」。介護で平日も休む必要が出てきたため、思い詰めていた不動産業務担当の40代男性社員が、この制度で会社に踏みとどまった。会社が実施した聞き取り調査に、同じような悩みを抱える社員が苦しい胸の内を漏らしたことが制度創設のきっかけだった。 「出張中に助かる」「介護スタッフから、遠方の両親の様子を聞けるのがいい」など、社内の受け止めは上々。同社の担当者によると、世界に先駆け少子高齢化が進む日本独自の制度として、「インドなど他国の支社からも非常に興味を示された」という。 高齢化と成長 課題克服を世界が注目 ゴールドマンのような手厚い資金支援はどこの企業でもできるわけではない。しかし、介護と仕事の両立支援にはそれぞれに職場なりの工夫で、できる対策があるはず。社員の6割が40代以上という三菱ふそうトラック・バスでは、まずは「IT系システムを完備し、柔軟な働き方のできる環境を整えることで対応していく」(人事担当者)など、企業側もその方策を模索している。「従業員の実態を把握するアンケートや基礎知識を講義する介護セミナーなど仕事と介護の両立を支援する内容に、大企業を中心に100社以上の引き合いがきている」。こう話すのはパソナライフケア(東京都千代田区)の高橋康之社長だ。
パソナ子会社で介護サービスや介護職の人材サービスに特化した同社は、昨年2月に企業向けに「介護離職予防サービス」を開始。安倍首相の「介護離職ゼロ」メッセージも追い風となって、介護支援を喫緊の課題と捉えている企業がぐっと増えてきたという。 もっとも、介護と仕事の両立のハードルは依然、高い。明治安田生命生活福祉研究所とダイヤ高齢社会研究財団の調査(14年)では、仕事と介護を両立させようと転職した人の年収は、男性で4割減、女性で半減という厳しい結果になっている。正社員で働いていた人のうち転職後も正社員だった人の割合は、男性で3人に1人、女性は5人に1人にすぎない。介護離職防止への企業の意識が高まり始めたことで今後、企業で働き方の見直しが進む期待はあるが、介護離職防止対策促進機構の和気氏は、企業側の支援体制に加え、「受け入れ先や訪問介護の充実など社会的資源不足も課題。介護をしながら働くことが当たり前の社会にすべきだ」と提言する。
ゴールドマン日本法人の支援制度を海外支社が評価したように、高齢化社会のトップランナーの日本の企業が、どう介護や育児と仕事の両立の課題を克服して成長を確保していくのかを、世界は注目している。(滝川麻衣子)