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マツダ“地味”な独自技術で存在感 原点回帰で危機の歴史と決別なるか
2016年9月7日 水曜日


例えば、ハンドルを切ったら、トルクを落として横方向に振られる加速度(G)を縦方向に逃して運転手らの身体の揺れを減らす。疲労が軽減されるうえ、進行方向を決める前輪に荷重がかかるので曲がりやすくもなる。開発した操安性能開発部シニア・スペシャリストの梅津大輔氏は「(クルマが人の一部になる)人馬一体を目指して開発した」と話す。
操作に対して身構えにくい自動運転でも疲労を減らす効果が期待でき、幅広い活用が見込まれる。ただ、効果を実感するのは「GVCのないクルマと乗り比べてもらわないと難しい」(関係者)。幹部も「マツダ流の地味な技術」と自嘲気味に語る。 GVCは、マツダが開発する「スカイアクティブ」技術の新境地だ。走りと環境・安全性能の両立を目指し、エンジンや変速機、プラットフォーム(車台)に加え、足回りもゼロから見直す。原点回帰の結果、ハイブリッドなど先端技術に依存せず、エンジンの圧縮比を高めて低燃費を実現するなど基本性能を徹底的に高めている。スカイアクティブを採用した新世代商品は2012年のスポーツ用多目的車(SUV)「CX-5」を皮切りに、旗艦車「アテンザ」、スポーツ車「デミオ」などに幅広く拡大し、昨年11月末まで約4年間に累計300万台を突破。16年3月期は営業利益が前期比12%増の2267億円、世界販売は10%増の153万台といずれも過去最高を記録した。為替変動の影響が424億円の減益要因になったが、販売の好調でカバーしている。
マツダを原点回帰に向かわせたのは、これまでの危機の歴史だ。1967年に世界初の量産ロータリーエンジンを搭載した「コスモスポーツ」を発売。おむすび型のローター(回転子)を気筒の中で回し、吸気、圧縮、爆発の工程を繰り返して動力を生むエンジンは、通常のエンジンに比べて小型で出力が高く、スポーツ車「RX-7」など人気車種を生んだ。 一時はマイクロバスなどにも搭載を広げたが、73年の石油ショックなどで燃費の悪さが敬遠され、業績が悪化した。アクセラの前身とされる小型車「ファミリア」のヒットなどで乗り切るが、バブル期には販売系列を「アンフィニ」「ユーノス」など5チャンネルまで広げる過剰投資が裏目に出て、米フォード・モーターに支援を求めた。 08年のリーマン・ショック後には業績が悪化し、翌年に1000億円の公募増資を実施するなど度重なる危機を乗り越えてきた。 12年には環境規制への対応が難しいロータリーエンジンの生産を中止する一方で、誕生したのがスカイアクティブだった。 人間中心の設計思想 スカイアクティブは、代名詞ともいえる量産エンジンで最高圧縮比(低燃費)を誇るクリーンディーゼルなど環境技術のほか、安全性能でも独自路線を採っている。 各社は自動運転を視野に衝突回避ブレーキや車線からの逸脱を回避するなど人為的な操作ミスを機械によって防ぐ技術の開発に注力する。マツダもこれらの技術を採用するが、重視するのは運転手のより正しい認知、判断、操作を支える「人間中心の設計思想」だ。長時間の運転でも操作ミスを起こさないよう、人間が最もリラックスできる無重力状態に近いシートポジションを追求。計器類に視線を移す時間を減らすため、アクセラの改良モデルはヘッドアップディスプレーに新たに制限速度の表示を追加するなど地味ながら進化を続けている。
業界関係者はGVCなどスカイアクティブ技術について、「ハイブリッドのように購入のきっかけになるほど影響力は大きくないが、一度体験すると効果は絶大だ」と語る。マツダは17年3月期に円高などで営業減益を予想する。好調から一転して危機に陥る歴史を断ち切れるかどうか。企業努力に加え、真摯(しんし)な姿勢を評価できるクルマ文化の確立が問われている。(会田聡)