send 【底流】すき家、汚名返上へ戦略見直し ワンオペ解消へ外国人採用拡充も
2014年8月8日 金曜日

1982年の創業以来、初の最終赤字に転落する見通しとなった牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)。人手不足問題への対応の遅れは、業績悪化を招いただけでなく、深夜時間帯での1人勤務「ワンオペ」など24時間営業のビジネスモデルの見直しも迫られている。“ブラック企業”という汚名返上に向け、新体制で収益基盤確保や市場ニーズの変化への対応を急ぐ。
初の赤字転落
7日の東京株式市場で、ゼンショーHD株は前日終値比69円安の926円で取引を終えた。一時、906円と年初来安値を更新した。
6日には、2015年3月期の連結最終損益が、当初の41億円の黒字から、13億円の赤字に転落するなどとした業績の下方修正を発表した。年間配当も、1株当たり16円から8円に半減させており、投資家の失望売りを誘った格好だ。
6日夜の会見で、小川賢太郎会長兼社長は、しきりにハンカチで顔や首の汗をぬぐった。初の赤字決算の発表という一大事に加え、労働環境の抜本的な見直しを図ることを表明し、神経質になっているようだった。
今回、赤字決算と同様の衝撃をもたらしたのは、深夜時間帯で1人勤務を9月末までに解消することと、牛丼並盛りの本体価格を現行よりも20円高い270円とする改定を8月27日から実施することの2つだ。
すき家では、来店客数が少ない深夜時間帯は、1人で切り盛りするワンオペの店舗が大半だ。同社の労働環境を調査してきた第三者委員会は7月末、このことが過酷な労働環境を生み出している大きな要因と指摘し、早期にワンオペを解消すべきだなどと提案していた。
これを受け、6日の取締役会でワンオペの解消が決まった。人繰りをつけるための取り組みを進めると同時に、人の手当てがつかない店舗については、午前0時から午前5時を基本に深夜営業を休止する。
深夜470店休業も
全国で2000店舗あるすき家で、現時点でワンオペがある店舗は、半数近い約940店舗もある。近隣の店舗から応援を出したり、アルバイトの勤務店舗を変更したり、外国人留学生の採用を拡充させたりといった手法をとる予定だ。「それでも(940店の半分の)460~470店は深夜営業を休止することになる」(小川会長兼社長)という。最悪の想定では、940店舗で深夜営業を休止するという。
大量の店舗で深夜営業を休止するのは、すき家のビジネスモデルともいえる24時間営業を修正するものとなる。
すき家が急成長してきた背景には、24時間営業を採算性よく行ってきたことがあるが、「そのモデルの変更も仕方ない」(小川会長兼社長)覚悟だ。
人手不足問題が解消したとしても、今後は立地や状況に応じては、「フレキシブルに運用する」(小川会長兼社長)とし、ショッピングセンターやモール店以外の店舗でも、深夜営業を実施しない店舗も出てくる。
牛丼値上げの最大の理由について、小川会長兼社長は「(牛肉の国際相場など)原材料価格の上昇に対応するためだ」と説明する。さらに、ワンオペをやめれば人件費が高騰するなど、経営への影響は避けられない。
「ステージ変わった」 福利厚生拡充を検討
ゼンショーホールディングス(HD)は、値上げしても業界最安値は変わらず、優位性はあるとみており、最悪でも客数は5%減にとどまると想定する。
すき家の牛丼価格は、4月の消費税率引き上げ時にも、上がるどころか10円値下げした。消費者から「国民食」として支持されていることを念頭に企業努力を続けてきたが、「労働条件の改善やサービス向上のために、利益を確保しないとバランスがとれない」(小川会長兼社長)状況に追い詰められた。
今後の焦点は、労働の過酷さや防犯面の問題などから“ブラック企業”とされた批判をどう払拭するかだ。小川会長兼社長は「ブラック企業という言い方には生理的な嫌悪感がある。当然そう呼ばれれば悔しい思いをする」と語った。
小川会長兼社長は「すき家ではクルー自らが生産性を上げようと努力し、その結果、牛丼最後発企業が外食産業のトップになった」と分析。その中で、「ステージは変わった」ことを実感し、「企業としての社会的な責任を果たし、あるべき形を作っていく」ことを打ち出した。従業員の自己啓発を支援するための福利厚生の見直しなどの検討に入った。
ゼンショーHDは、過去にもワンオペ解消の方針を明確に打ち出したものの、達成できなかった経緯がある。一連の決定や方針が「その場しのぎ」と批判されないよう、小川会長兼社長の指導力が問われている。(平尾孝)